今回はD.C.4のレビューになります。
じっくり遊んでいたので、クリアまでに1ヶ月くらい要しましたが、キャラも立っていてストーリーも楽しいので、最後まで飽きることなくプレイできました。
それでは、メインキャラクターを中心に感想を書いていきます。
**ネタバレ前提となっておりますので、未プレイの方はご注意ください**
白河ひより
他人の恋を成就させる恋愛請負人。まさに恋のキューピット。杉並と同じくらいの自由人で、常に余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の笑みを浮かべています。だからこそ、照れた表情や素直な気持ちを隠そうとする乙女な一面は抜群に可愛いです。
後半ではひよりが自分の仕事に固執する理由が語られています。子どもの頃、彼女はいわれのない理由で友達の輪から孤立してしまいます。その後、彼女の縁を結ぶ不思議な能力のおかげで、孤立は解消され、以前よりも人気者になったのでした。ひよりにとって、縁を結ぶ能力と恋愛を成就させる仕事は自身を守り、周りから自分を必要としてもらうための手段だったのです。
結局、人間は他者から認められたい生き物です。認められることで「ここに居ていいんだ」という安心感が得られ、自己肯定感が育まれ、アイデンティティの確立につながります。ひよりの物語が特殊なのではなく、これは誰にでも起こりうる話なのです。
ひよりルートはグランドルートに直結する伏線要素は少なめですが、上記のようなメッセージ性の強いストーリーのように感じられました。
――見えるそのままを見ることも大事
――見えなくて良いものがずっと見えていたせいで、本当のことが見えなくなることもある
琴里と一登がひよりに向けた台詞ですね。私の中でとても印象に残った言葉です。能力のおかげで(原因で)普通の人が知りえないことを彼女は知り、普通の人にとっての当たり前がひよりにとっては当たり前じゃなくなっていました。縁結びの力は彼女に居場所を与えてくれた一方で人並みの感覚を奪ったのです。
現実でも「表面では分からないこと、物事の深層や裏を知ろうとする姿勢」が一種の美徳のように教えられます。しかしその反面、本当に大事なことを見失っているケースもあって、その答えは実はシンプルで目の前にあるよ、というメッセージにも感じました。
鳳城詩名
前半の塩対応とは裏腹に、後半のデレたときの落差で心を奪われたユーザーも多いのではないでしょうか。別れの期日(リミット)が決まっていて、それまでの思い出作りという内容も王道ながら涙を誘います。
プレイする前は詩名ルートはおまけ程度かなと思っていたのですが、本作ではとても重要なパートになります。理由は主に2つあります。
①一登の成長
事故の一件以来ピアノを弾けなくなってしまった主人公の一登。他のルートでも再びピアノと向き合う描写はありますが、詩名ルートが最も一登の勇気を描いています。詩名との出会いをきっかけに、辛いトラウマを乗り越えようとする一登の成長が丁寧に語られます。
クライマックスで墓前で家族に挨拶するシーンがありましたね。停滞していた日々から一歩を踏み出した一登ですが、やはり大切な物を失った過去は簡単に区切りがつけられるものではありません。
最後には弱い部分を見せます。そんな彼に投げかけた詩名の「(過去を)乗り越えなくていい」という言葉には優しさと温かさが込められています。変わっていくものもあるけど、変わらないものもあって、そして変わる必要の無いものもあるのです。
②グランドルートの伏線と考察
詩名は異世界から渡ってきたという説がありました。おそらくグランドルートでの対世界や可能性の話だと思います。もともと詩名は未来から来たという流れでしたが話が進むにつれて異世界説が濃厚になり、結局答えははっきりしないままエンディングを迎えます。
物語の展開や詩名がこちらの世界に来るときの描写を踏まえると、別の可能性から渡ってきたと考えるのがしっくりきます。しかし、未来説も完全には否定できません。
常坂家は「時遡の魔法」を代々受け継ぐ血脈です。詩名の発言の通り、もし彼女が一登の娘なら彼女も時遡の魔法の一端を受け継いでることになりますので、タイムリープ説も支持できます。
有里咲ルートで、現在の世界で時遡の魔法を使えるのは一登だけと言及されていますが、一登の血を直接引いた未来の詩名ならそれができたかもしれません。
本校の始業式の夜に雷が落ちなかったことによって詩名の発言と現実に食い違いが発生し、未来説は文字通り雲行きが怪しくなるのですが、未来の一登が別の可能性を夢見ていて勘違いしてしまったと考えれば強引ですが辻褄が合います。
しかし、時遡の魔法を使えば記憶はリセットされるのに、詩名は未来の記憶を明確に維持したままこの世界に来ています。加えて、時遡の魔法を使うには大きく純度の高い魔力を必要とするのはもちろんのこと、そこには強い動機付けが必要だと考えています。
家族を――あの頃の日常を取り戻したいと願った一登のように。
それこそ世界を変えたいと思うような動機が必要なのです。詩名の日常は家族団らんで幸せなもので陰があるようには見えません。そして、突然こちらの世界に来ていた点、来る時の風景や状況などを考えると、やはり対世界・別の可能性から渡ってきたと思われます。
詩名ルートはどっちつかずの状態で終わるので不満を感じている意見も聞きますが、本編を最後までプレイして得た情報を用いて再考してくださいね、そして最終的な判断はユーザーに委ねますよという間接的なメッセージだったのかもしれません。
D.C.はファンタジーです。ファンタジーはファンタジーのまま、すべてに理論的な解を求めずに終わるのが美なのかもしれません。
常坂二乃
一登の”妹”。学園では優等生を演じ、家では少し自堕落な生活を送ったり兄をからかったりする二面性お嬢様。一登を挑発する小悪魔的な言動がいちいち可愛いです。
個人的に立ち絵の表情パターンは二乃が一番好きでした。
ストーリーはこれぞダ・カーポという内容です。家族の関係性を維持するか、恋人としての距離に発展させるかという悩みに二乃は苛まれます。
過去の事故が恋人の関係になることの足枷になってしまいます。想いがあるのに伝えられない or 相手の気持ちを受け入れることが出来ないー有里栖にしてもそら姉にしても、ひよりにしても今回はこういうパターンが多かったですね。
クライマックスはグランドルートと重なる重要なシーンを見せてくれます。三美ちゃんの声が直接届く唯一のルートでもあります。
世界には無数の可能性が存在します。家族を失わず今でもみんなで笑顔で過ごせた”可能性”もあったのでしょうか……あったらいいな。そんな風に耽りながら二乃ルートをプレイしていました。
逢見諳子
D.C.4版の音姉です。一登と二乃が大好きで、いつも心配してくれる家庭的で優しいお姉ちゃん。
今回が初めてのダ・カーポシリーズだったという人はそら姉の魅力に存分に癒されたと思います。そんな方はぜひ、過去作も遊んで「初代そら姉」に会ってほしいと思います。
そら姉の正体は長い年月を生きてきた兎の怪異です。もちろん悪意のある妖怪ではなく、むしろ不条理な運命に弄ばれた被害者です。
シナリオには直接書かれていませんが、同族の家族や仲間はすでに亡くなっていると思われます。
彼女には「不老不死」の呪いがかけられていたからです。加えて、「変身」の呪いのせいで同じ集団に属することができなくなりました。おそらく、愛する家族や仲間に最期のお別れを言うこともできず、その後は常坂元に拾ってもらったとはいえ、ずっと孤独を感じていたのだと思います。
そら姉ルートをやりながら白河ひよりのストーリーを思い出していました。
ひよりは周りから慕ってもらうために自分の役目を全うしていました。そら姉も常坂家に恩返しをするために、そして一人になるのが嫌だったから、常坂の人間の側に居ました。
お世話をすることが恩返しであり、同時に自分の存在意義だと主張するように。もちろん、打算的な感情はなく、純粋な善意でやっていたことは逢見諳子という人柄を見ていればよくわかります。そら姉とひよりに意外な共通点があるのも驚きですが、ひよりよりも遥かに長い間、寂しさを抱えて生きていたと考えると胸が締めつけられました。
鷺澤有里栖
物語の核心に迫るヒロインですが、小難しい話は抜きにして純粋に可愛いです。ムードメーカー的な存在ですが、自分から積極的に笑顔を振りまくというよりは彼女の周りに自然と笑顔が集まってくるというタイプです。小柄な体型ですがたくさん食べます。スイーツは別腹です。今後は、有里栖の食レポやそら姉の料理をモチーフにしたコラボカフェや企画をやっていただけると嬉しいですね♪
肝心の内容ですが、これぞダ・カーポという感じです(本日二回目)。こそばゆい青春とファンタジーの融合を見せてくれます。ダ・カーポというと「枯れない桜」のイメージが強いですが、会話の中でちらっと出てきても、今回のメインコンセプトは別の所にありましたね。
少し残念だったのはワンダーランドで有里栖とキスしそうになったときにアリスがこちらを見ていた理由が明かされていない点です。再び訪れた日にもアリスは姿を見せませんでした。
考えられる理由はやはり有里咲でしょうか。ワンダーランドからの帰路の途中で雪が降っていました。ゲームを最後までプレイすれば判りますが、あれは厳密には雪ではありません。有里咲が恋をしたことで(魔法使いにとって恋は禁忌)地上に降ったマナ(=魔力)の残滓です。これを前提に大きく2つの可能性が考えられます。
①ホログラム「アリス」は天枷研究所と協同で開発している人工妖精と関係があると有里栖は以前話していました。ミズの国のマナは人工妖精と非常に類似した形をしています。よって、有里咲がミズの国にいた一年間で有里咲のマナがアリスの構成に何かしらの影響を与え、AIの学習機能も相まって「本来覚えるはずのない感情や言葉」を学習してしまったという仮説です。アリスは本来ワンダーランドの案内人です。それに関連した知能を発達させるはずなのに、一登と一緒に来た有里栖に「デートですか?」と茶化す場面もありました。自身の役割以上の知識を習得している証拠です。また、キスシーンで見せたアリスの寂しげな表情。あれは恋を学習してしまったAIホログラムの感情の発露だったのでしょうか。
ひとつ疑問があるとすれば、この時の有里咲はカガミの国にいたはずです。境界線にいる存在が双方の国に影響を与え得るのかという疑問はありますが、物語のラストで彼女はカガミの国からマナバランスを調整しようと試みましたので、不可能な現象ではないのかもしれません。
②アリスと有里咲が入れ替わっていた説。一年間、『ミズの国』の有里栖と『サクラの国』の有里咲は入れ替わっていました。同じようにあの時、有里咲はアリスに扮してミズの国に来ていたのではないでしょうか。原則、対存在が同じ世界に存在することは叶いませんが、有里咲√で特別措置を講じたように不可能ではありません。動機は一登への恋心を諦めきれなかったから。魔法使いは恋が許されないとはいえ有里咲も一人の女の子です。簡単に自分の気持ちに蓋をすることはできません。有里栖はサクラの国に行っていたとき一登とはあまり親しくなかったと話していて、有里栖には有里咲の記憶が一時的に移植されていました。つまり、有里咲もまたサクラの国の一登とは仲があまり良くなかった可能性が高いです。一度はお別れをしたけど、もう一度だけミズの国で過ごした時間に浸りたかったという心残りから有里咲はアリスとしてこちらの世界に来たのではないでしょうか。
また、有里栖はミズの国⇔サクラの国を行き来するときに有里咲によって記憶を操作されています。魔法でも何でも「絶対」はこの世に存在しません。元の世界に戻った有里栖に副作用は出てないか、今まで通りの日常を送っているかという不安はあったはずです。一登だけでなく、対存在の有里栖も、一緒に活動したSSRのメンバーも有里咲にとっては大切な存在です。その安否を自分の目で確認したかったと思います。「アリスとして」なら有里栖の近い距離で見守っていても不審がられませんしね。
①で示したアリスの表情などの理由は、②の仮説でも説明がつくので、個人的にはアリス変装説が有力だと思っています。
最後に、「時遡の魔法」と「可能性世界」については一部シナリオの矛盾があるのですが、一登の夢の正体と、ここまで分かりそうで分からなかった謎が氷解します。グランド√になりますのでもちろん厚みのある内容になっていますが、それ以外の各ヒロイン√も負けないくらい充実したものでした。ちよ子や美嶋さんのような気軽に遊べるルートもあり、全体としてバランスのいいゲームだったと思います。
惜しかった点
不満点はほぼありませんが、強いて挙げるなら以下の3点です。
①会話のテンポ
ひとつあたりの台詞が長い箇所がけっこうあります。状況説明 / 描写はそれでも問題ないですが、キャラクター同士の会話劇ではどうしてもテンポを悪くしてしまいます。
台詞が長くなる場合には一つのメッセージウィンドウに収めようとするのではなく、区切った方がメリハリが生まれてユーザーも読みやすいかなと思います。
②言葉の定義の明確性
後半に登場する「可能性」や「因果」などの語句の定義をはっきりさせておいた方がいいと思いました。これらの語句はそもそもが概念的な上に、内容によって解釈が広がる言葉です。まして物語の根幹に関わる部分なので、一度時間を作って整理する場面を設けるべきでした。
③システムの改善
・他のフルプライス版のゲームと比べてもダ・カーポは長編作品なので、セーブ数が100個なのは少ないと感じました。また、セーブの増設機能、データの移動や削除機能なども最近のゲームでは当然のように実装されているので、ファンディスクも含めて今後の作品にはぜひ付けてほしいと思います。
・バックログでの操作がもう少し細かくできるといいなと思います。移動の幅が大まかすぎて、目的のシーンにピンポイントで飛べないことが何度かありました。
評価
おそらく多くのユーザー(とりわけ過去作からの古参ファン)が発売前に持っていた疑問は「これって本当にダ・カーポなの?」という点だと思います。
前作からの時期がけっこう空きましたし、D.C.Ⅲで完結みたいな雰囲気がありましたからね。要するに、『D.S.-Dal Segno-』や「てんぷれっ!!』のように単体の作品として出せばいいわけで、わざわざダ・カーポの看板を背負う必要があるの? という意見ですね。
個人的には、D.C.4はこういったユーザーの不安を払拭する答えを出せた内容だったと考えています。
「こそばゆい青春劇」「家族愛と恋人愛」「ファンタジーとの親和性」「前作とのリンク」などがダ・カーポシリーズの代名詞です。本編を振り返ってみてもきちんとダ・カーポの特長が盛り込まれていました。
「世界観の設定などが無理やり過去作との接点を持たせようとしている」というユーザーからの意見もありますが、私は良い所で今までの作品との折り合いをつけていて、ライターさん達の技術が光ったなという感想をもちました。過去作へのリスペクトを忘れず、何より懐かしいキャラや曲などが登場してくれるのは純粋に嬉しいです。
長くなりましたが、ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
本作はおそらくアニメ化をはじめ、ファンディスクの発売、様々なメディアミックス展開など活動の幅を広げていくことでしょう。早ければいくつかの企画はすでに水面下で動いていると思います。
D.C.4は平成の思い出を継承しつつ、令和のダ・カーポとしていいスタートを切りました。今後の成長が楽しみです。
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