『空に刻んだパラレログラム』

キャラクター感想

メインヒロインを中心に、気になったキャラクターをピックアップします。

■藍住ほたる

おそらく本作で最も伝えたいメッセージは、ほたる先輩と里亜ちゃんに集約されているのではないでしょうか。人間社会は優劣を意識します。学業でも、スポーツでも、何でもです。周りに負けじと努力を惜しまない屈強な人もいますが、残念ながら人間のメンタルはそこまで強くありません。劣等感に押しつぶされる人の方が多いと思います。ほたる先輩もそんな一人。才能に恵まれながら自分で限界を作り、進化を否定します。周りが輝いているほどに、歯がゆさと後悔の念が募ります。いつしか焦りや不安にも慣れてしまい、惰性の生き方を自ら肯定してしまう。輝かしい「今」を過ごしているはずなのに、どこか過去に忘れ物をしている感じ。そんな哀愁にも似た葛藤が伝わってきます。しかしながら、そんな苦悩を乗り越えた彼女は誰よりもキラキラしています。CGと音楽も相まってラストは鳥肌が止まりませんでした。余談ですが本編で一番好きなキャラクターです。

■有佐里亜

里亜には大きく二つのメッセージが託されているように思います。一点目は、「個人の意思」と「公共の利益」のどちらを選択するかという問題です。厳しい現状の中でも自分の意思を大切にするのか、あるいはチームの勝利を優先して一歩身を引くのか。部活動などで同じような境遇を経験した方なら共感した人、彼女を見てて胸を締め付けられた人はきっと多いのではないでしょうか。

そして二点目は、好きな事をどこまで(いつまで)貫けるかという命題です。スポーツでも何でも、きっと最初は誰もが「楽しさや憧れ」を持って始めると思います。しかし、それが勝負事や、生計を立てていくことになると「好き」という感情だけではやっていけません。どこかで「気持ち」と「現実」の折り合いを付けなければなりません。本来、この問題に万人が納得できる答えを出すのはほぼ不可能だと思います。ましてや彼女たちは未来を保証されていない若者ですから、その選択は非常に重いです。里亜は常に重いシーソーゲームを迫られますが、芯が強く周りに気遣いができる素敵な女の子です。

■宝生玻璃

自分で限界を作ってしまうのがほたる先輩なら、玻璃ちゃんはその対極の存在。ライバルやチームメイトに抜かれたくない。負けているという現実を直視したくない。競争の世界に身を置いた人なら、きっと誰もが経験することだと思います。柚のように、その負の感情を研鑽の原動力に変換できる人はそう多くないでしょう。本当の玻璃はメンタルが弱いですが、その分負けず嫌いで、頑固です。その性格こそが彼女の短所であり、強さでもあります。“負けず嫌いで何が悪い!”“わがまま上等!”そんな開き直りにも近い力強いメッセージが玻璃ちゃんからは伝わってきます。

■日比菜小絵

日比菜小絵はとても重要なキャラクターです。バトルものやスポーツものではたいてい、

①テキスト描写
②実際に戦っているキャラ達の会話
③それを見守る外野キャラのセリフ

などを用いて戦況を読み手に理解させます。本作では③の比重が少ない分、小絵がそれをカバーしています。テレプシコーラという空を駆けるスポーツ。選手たちのポジショニングは目まぐるしく変わります。小絵という存在が試合の流れをスムーズに捕捉的に説明し、同時に躍動感を持たせています。蓮さんや境先輩など、試合の度に他のキャラをゲストに招いて解説してもらうという発想も面白かったです。

■境遼二

故意ではなかったかもしれない。しかし悪い条件がいくつも「偶然にも」「不運にも」重なってしまった。結果として、遼二先輩は一人の選手の未来を奪う形になってしまいます。罪の意識が彼を空に束縛します。 遼二先輩は加害者でもあり、同じくらい被害者でもあります。 消せない過去を引きずったまま飛ぶ空は、彼には何色に見えていたのでしょうか。遼二先輩の視点でもう一度ゲームをプレイすると色々な感情が芽生えます。

■矢継才加

おっとりした性格ですが、場の空気をコントロールする打算的な一面や、少し冷酷になってでも勝ちに行くという意外な側面もある才加ちゃん。しかし誰よりも仲間(とりわけ硝子)を気にかける優しい子。歩と里亜が幼馴染の絆で結ばれているように、才加もまた硝子の「本当の気持ち」を理解していて力になろうとします。チームを立ち上げる時の過去の描写がありました。みんな真剣に空を飛んでいる。それぞれに大切なものがあって、それを想う気持ちに順位なんてつけられないのに。何が勝負を分けるんだろう、と才加ちゃんを見てて考えされられました。

■彼杵柚

どんなに劣勢でも、誰もが負けを確信しても、それでも彼女だけは前を向いていました。ほたる先輩、玻璃ちゃん、里亜ちゃんの3人は、いずれも過去 / 現状の苦悩と葛藤します。そして、それこそが『空に刻んだパラレログラム』の本筋とも言えます。柚の場合は、悩みとか迷いとか—そういうのは全部もう済ませた!だから、あとは上を向いて走るだけ!そういうタイプです。周りが沈んでも彼女は諦めず、最後までチームを鼓舞するというメインヒロインの役割をしっかりとこなしていました。

個人的に柚で驚いたのはもちろん彼女の成長ぶりなのですが、正確にはシナリオの水面下で進む成長の軌跡です。入部当初、柚は第二で一番下手でした。そこから誰よりも地道な練習をこなして、気が付けばチームを引っ張る存在になっていました。危機的な状況でも「柚ならきっと何とかしてくる」と思ってしまうのです。「あれ?いつから柚ってこんなに頼もしい存在になったっけ」と一瞬戸惑います。シナリオの水面下で少しずつ彼女の信頼度を上げていくやり方がとても上手だと思いました。

本当はすべてのキャラクターについてコメントしたいですが、数があまりにも多いので、ここら辺で筆を置かせていただきます。初めて公式サイトを見て、登場人物の数に圧倒されました。一通りプレイすれば登場人物ひとり一人に明確な役割が付与されていることが分かります。それ以上に、サブキャラ達にも回想や胸に秘めた想いの描写などがちゃんとあって、ひとりひとりのキャラクターを大切にしていることが伝わってきます。

その他

・メーカー様や他のユーザーの方々も指摘されている通り、誤字脱字が所々見受けられます。修正パッチを適用しましたが、それでも結構ありましたね。同音異義語のミスが多い印象です。加えて、試合での選手名の間違いが幾つかあります。後方を飛んでいたはずの選手がいつの間にか前線でパスをもらおうとしていたり、マークについていた選手が次のシーンで別の人にすり替わっていたり、などです。気になる方は気になるかもしれません。

・試合数も多く長編の物語ですので、章や場面ごとの区切り、そしてクイックジャンプ機能は欲しかったですね。

・小絵ちゃんの所でも触れましたが、空の競技という立体的な題材にもかかわらず、とても分かりやすく試合の戦況を伝えられています。しかし、やはり文章だけでは理解しにくい部分もあると思います。各選手のポジション(戦術)ボードを試合開始時・ハーフタイム後・ポジションが変わった時に挿入するなど、視覚情報があればより分かりやすかったかなと思います。

最後に

最後までご覧いただきありがとうございます。当ブログで最初のゲームレビューとなりました。作品の内容や最初の投稿ともあって、かなり真面目な記事になってしまいましたね。これからはもう少し肩の力を抜いたレビューにしようと思います。

ウグイスカグラさんのゲームをプレイするのは今回で3回目になりました。ウグイスカグラさんのシリーズはストーリーも、キャラも個人的に好きなので、次回作も楽しみです。