minori「その日の獣には、」感想&考察

その日の獣には、

ちょっと間が空いてしまいましたが、minoriさんの「その日の獣には、」をプレイしてみました。

minoriさんは2019年をもちまして解散となりましたので、「そのけも」が最後の作品となります。

わたし自身も、minoriさんの作品からは大きな影響と刺激を受けた一人ですので、解散のニュースは衝撃的で、残念でした。

普段、美少女ゲームをやらない方でも、「ef」のアニメが好きだったよ、という人は多いのではないでしょうか。

名残り惜しいですが、レビューと考察を書いていきます。こちらの記事を読んでひとりでも多くの方が、「その日の獣には、」そして過去作に興味を持っていただければ嬉しいです。

本記事は、

・キャラクターの感想

・クロガネの正体についての考察

・全体の評価

という流れになっています。それでは、いっていましょう。

 

キャラクター紹介・レビュー

深浜祈莉

友瀬瑠奈

主人公、友瀬律希の妹。

演者としての実力もあり、自信家。チームメイトを指導したり、鼓舞したりします。

兄である主人公にはダメ出しや生意気な口を叩くことも多く、兄妹の仲の良さがうかがえます。

しかし、強気な性格の故、前半では嫌われ役に回る瑠奈。

正直、序盤ではなかなか好感を持ちにくいキャラなのですが、個別ルートでは意志の強さの中にも素直さが見え隠れする部分があって可愛いです。

厳しい意見を浴びせることも多い瑠奈ですが、舞雪ルートのクライマックスではチームをまとめ、物語を良い形で締めてくれるシーンもあって、個人的に瑠奈の株が上がるポイントでした。

 

池貝舞雪

律希と瑠奈の幼馴染。

健気で、頑張り屋で、昔から律希に恋心を持っている女の子。

素直で良い子なのですが、悩みを一人で抱え込んでしまう癖があります。

お姉さんが優秀な分、自分には何も無いと思い、劣等感を持っているのです。

この「舞雪」という名前が、物語ともよく紐づけられていて、3人のヒロインの中で一番こだわって付けられた名前だなって感じました。

舞雪のチャームポイントとしては、「え~~~~~っ!」や「はわわわっ」などのリアクションが可愛いところです。CVくすはらゆいさんの熱演が見れますよ。

 

深浜祈莉

律希たちと同じクラスメートの少女。演劇に関しては舞雪と同じで初心者。

新しい発見があるとメモを取る習慣があります。文章の表現が独特。とくに、瑠奈の人物評価が辛辣で、シリアスな場面なのに笑いました。

個人的に、照れてる仕草や、表情パターンは祈莉が一番好きでした。

物静かで、彼女の周りだけ違う時間が流れているような、不思議な子。親が学園の理事長なのですが、祈莉自身からはお嬢様のような気品さは特に感じず、親しみやすい人柄。

そんな彼女のルートは「ソノヒノケモノニハ、」と向き合うお話。

ゲームのシステム上、瑠奈と舞雪ルートを攻略しないと祈莉ルートに行けませんので、事実上、祈莉ルートがTrue Endになります。

 

佐伯つばさ

演劇部の部長。リーダーシップを発揮しながら部を上手くまとめ、律希たちのチームも気にかけてくれる優しい先輩。

演劇に関しては、経験から裏打ちされた上級生らしい助言を与えて、律希たちを鼓舞する場面が何度もありました。

 

池貝菫

舞雪のお姉さん。

菫は舞雪のことが大好きなのですが、舞雪は菫を避けていました。自分には突出した才能がなく、優等生の姉に劣等感を抱いていたのです。

そんな二人が空いてしまった溝を埋めて、和解するシーンがとても素敵でした。

優秀な故にどこかクレイジーな言動もする残念系ヒロインですが、妹想いという点では最高のお姉さんキャラでした。

 

クロガネの正体について考察

クロガネ

個別ルートの展開は基本的に3人とも同じです。1年生ながら選考会に出ることになった律希たちは、それを通過するために練習を重ねます。

しかし、精彩を欠き、暗雲がたちこめます。そこに現れるのがクロガネという謎の幽霊。

彼は、「代償」の代わりに、劇を成功させる力を、祈莉・舞雪・瑠奈に授けます。

このクロガネという人物は一体何者なのか。昔、命を落とした元演劇部員、それ以上のことは語られていません。

ここでは、そのクロガネの正体について考察してみます。

 

「ソノヒノケモノニハ、」の台本とエンディング

結論から言うと、クロガネは、友瀬律希の父親なのではないかと考えました。

「ソノヒノケモノニハ、」は律希の母(琴音)が学生の頃に書いた台本であり、同じ部員であったクロガネに宛てた秘密のラブレターのようなものでした。

しかし、舞台の直前にクロガネが帰らぬ人となったため、「ソノヒノケモノニハ、」は日の目を浴びることがなくなり、クロガネにとっての未練となりました。

律希たちは選考会で「ソノヒノケモノニハ、」のラストをアレンジします。「花の精」の自己犠牲によって獣が人に戻る悲恋エンディングから、両者が家族になるハッピーエンドに書き換えます。

この家族愛に溢れた幸せな終幕にクロガネは心を打たれます。

わたしは最初、琴音さんとクロガネの恋が成就しないまま、クロガネが他界してしまったと思ったのですが、もしかしたら母親とクロガネの想いは通じ合っていたのかもしれません。

例えば琴音さんは病にかかっていて、自らの生い先が長くないことを知っていた。恋が叶ったとしても、それが永遠に続くことはないと知っていた。そこで、台本に想いを託すことにした。

ところが、琴音さんの決意に反して、恋は叶ってしまった。土壇場で、どちらからか告白したのかもしれません。

しかし、その幸せの矢先に届いたのがクロガネの訃報です。

琴音さんが台本に込めた彼への想いは、皮肉な形で叶えられることになったのです。

母親は卒業後も脚本を書き続けました。もちろん、お話を作るのが好きだったし、才能があったというのが一番の理由だと思いますが、誰よりも演劇を愛していた元同級生(クロガネ)のために書き続けたという動機もあるでしょう。

 

クロガネが代償を欲した理由

クロガネは「代償」と引き換えに、ヒロイン達に力を与え、選考会の劇が成功するように確約をします。

ゲームを始めた当初、クロガネは悪役なのかなと思いましたが、よくよく考えれば、祈莉たちから代償をもらっても、クロガネ自身にメリットがないのです。

彼の目的は舞台の成功を見届けることです。悪役に立ち回ることではありません。むしろ、素晴らしい舞台を実現するために、自ら悪役を買うことも含めて、彼が用意した舞台なのです。

さて、最後の舞台で「家族愛」の他に、祈莉が掲げたもう一つのテーマがありました。「孤独」です。

クロガネは、祈莉からは記憶を、瑠奈からは幼き日の思い出を、舞雪からは恋心をそれぞれの代償として求めました。

クロガネは琴音との愛を「じゅうぶんに」育めないまま、息子の顔も拝めないまま、この世を去りました。

クロガネは「家族愛」を知らないまま、未完成の演劇がいつか形になることを願うだけの「孤独」な亡霊になりました。

だから、自分の心に空いてしまった「大切な人との記憶や思い出」を祈莉たちから奪って補完しようとしたのではないでしょうか。

たとえ自分とは関係がない記憶でも、人の温かさを知れるだけで「じゅうぶん」だったのです。

 

エンディングの考察

エンディングで、クロガネの仮面を律希が受け取るシーンがあります。祈莉は律希が持っていた方がいいと言い、律希もその仮面に懐かしさを覚えます。

「ソノヒノケモノニハ、」が母親からの形見だとしたら、仮面は父親からの贈り物なのかもしれません。

律希はこれからも母親に負けないくらいの脚本家を目指していきますが、演者としての気持ちも忘れるなよという父親からのメッセージのようにも感じられます。

“心の中に眠る獣は人となり、その恋は永遠となった”

本編の最後のセリフですね。これには大きく二つの意味があると考えられます。

一つ目は、今まで未熟(人間として不完全だった様子を獣と比喩している)だった律希が将来の目標をはっきりと持ち、祈莉との恋を育んでいこうという意味。

二つ目は、「花の精」と獣が最後で結ばれたように、ようやくクロガネと律希の母親の気持ちが一つになったという意味。

演劇に憑りつかれた幽霊は、欲望に任せて突き進む獣と同じ。感情を知ったことで、ようやく人並みになれて、琴音さんとの恋も昇華されたのです。

以上が、クロガネ=友瀬律希の父親と考える根拠です。

 

全体の評価

ストーリー

文章がとても綺麗です。ギャグ要素は少なめで、一つひとつの描写や台詞を噛みしめながら読み進めるタイプ。

美しい日本語で紡がれる本作は、どちらかというと文学チック寄りですが、堅苦しさは感じず、サクサク読めるのが良いですね。

瑠奈と舞雪ルートは作品のテーマをダイレクトに伝える内容で、祈莉は物語重視という感じでした。

 

CGと演出について

これはもう圧巻で、文句の付け所が無いです。

立ち絵シーンではキャラの配置が絶妙に計算されていますし、キャラの口が動いたり、瞬きをしたり、ヒロイン達が本当に生きているように魅せる手法は、これぞminori。

CGも一枚一枚に透明感と儚さがあって、とても美しいです。直感で綺麗だなって分かる美しさです。

 

イチオシポイント

池貝舞雪 失恋シーン

今回のピックアップは、祈莉ルートでの舞雪ちゃんの失恋シーンです。

ゲームの進行上、舞雪の方を先に攻略することになりますので、舞雪ちゃんにいっそう感情移入してしまいました。

別ルートで幼馴染ヒロインがどれだけ主人公を想っていたかが判るなんて、皮肉ですよね。

でも、minoriさんの作品はこういう切ない恋愛模様もちゃんと描いてくれるので、わたしはすごく好きでした。

あと、振られてしまった舞雪を姉の菫さんが心配するシーンが素敵でした。

舞雪と菫は関係がぎくしゃくしていましたが、それでもなお、妹を優しく気にかける菫に感動しました。個人的に今作のオススメポイントです。

 

そんなわけで、「その日の獣には、」をレビューしてみました。

やればやるほど、これがminoriさんの最後の作品と思うのが辛いですね。

わたしは12時間くらいでクリアしたのですが、ゆっくりプレイしても15時間程度で終わる短めの作品です。

コンパクトな作品ですが、前述の通り、クオリティは高いです。こんな良作を作れるブランドですから、これからも制作を続けてほしいというのは、わたしに限らずユーザー全員の願いです。

人が最後に生み出す創作には、その人の集大成としての魂とか、ハングリー精神が宿って、普通では作れないモノが完成するとよく言われます。

邪推なのは承知の上ですが、ブランドの解散時期と重ねますと、本作には作品以上のメッセージが込められている様にも思えますね。

とても感慨深い作品でした。そして、minoriさん、長い間お疲れさまでした。

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