『Summer Pockets』

平成最後の夏を彩ったKeyの作品。傑作にして良作でした。

当ブログの立ち上げ時期の事情により、プレイしてからかなり時間が経ってしまいましたが、少しずつ思い出しながら夏の足跡を追いかけたいと思います。
ネタバレがございますので、クリア前提でお願いします

 

Keyの過去作と同様にサマポケも、

[メインヒロインルート攻略]→[グランドルート]

という流れになっています。ALKA=中編、Pocket=後編というより、ALKA+Pocketでワンセットと考える方がしっくりきます。それでは前半と後半に分けて見ていきましょう。

 

◆前半パート(共通+個別ルート)◆

選択肢、それも分岐とは関係ない選択肢が多いです(笑)ただ、RECORDのコンプには地道にセーブ&ロードを駆使する必要があります。会話の変化も楽しめますので、全く苦になりません。毎度のことながらKeyのギャグセンスには頭が下がります。

また、物語の前半で笑いをメインに据えることでキャラクターへの感情移入が増し、後半の感動が一際大きくなる。ここら辺の「泣きゲー」の作り方は流石に熟知していますね。とはいえ、ライターさん達はそこまで難しいことは考えずに、ギャグパートは心の底から楽しみながら執筆していたんじゃないかな、と個人的には思っています。


しろはルート:時の編み人

蒼  ルート:七影蝶

紬  ルート:現世と常世の狭間

鴎  ルート:上記のミックス

という風に、各ヒロインルートには主要な伏線が最低でも1つは含まれていて、それを軸にしたシナリオとなっています。部分的に重複させることで、ひとつの世界だけでは視えない様相を読み手に理解させます。

私は鴎のルートが一番好きでした。「2度と覚めない眠りについた」と鴎のお母さんは話していて、鴎自身も「遠くに行かなければならない」と言っています。なので、私はてっきり鴎は亡くなったものと思っていたのですが、読み返してみると、生死については明確に言及されていないことに気付きます。

他のルートと洞窟の演出を踏まえると、鴎の正体は七影蝶の力だと推測できます。七影蝶が触れた人間には鴎の姿が視えていたのでしょう。

クライマックス~エンディングで羽依里が鴎と再会しているシーンがあります。あれは、

①鴎はすでに亡くなっていて、夏が巡り、再び七影蝶が鳥白島に戻って来て羽依里に鴎の姿を見せた。

②鴎は深い眠りに落ちていただけで、体調が回復して再会を果たした。

という大きく2つの解釈が考えられ、その判断をユーザーに委ねたというところでしょうか。蒼のお姉ちゃん(藍)も七影蝶の副作用によって深いまどろみに落ちていた眠り姫でした。彼女の事例も踏まえると、②鴎生存の可能性も大いにあります。儚くとも希望の可能性を提示して解釈を委ねるエンディングにはとても心を打たれます。


よく『Summer Pockets』と『AIR』を対比される方もいらっしゃいます。『AIR』をはじめ、夏を代表する作品は数多くありますが、それらの多くは舞台・背景設定が夏のお話です。サマポケはどちらかというと、夏そのもの、とりわけ夏の終わりに焦点を当てた物語ですので、両者にはコンセプト的に明確な違いがあると考えています。

”夏の隙間のような場所、薄明りの中にいるような存在”は紬の正体を比喩的に表現していますが、個人的にはサマポケ自体が言いたかったことの代弁でもあるようにも感じました。

終わってほしくない夏があって、楽しかったあの夏の思い出があって。それは全部が綺麗なものとは限らないけれど。やり残した面影を引きずる今もある。それも夏の正体のひとつではないでしょうか。

 

前半パートでは重要なヒントを織り交ぜながらサマポケが描きたかったことを存分に演出しています。伏線については、何気ない会話や描写の中にもさらっと大事なことが書かれているので、一通り終えた後にもう一度やり直すと、新たな発見があったりして楽しいです。


◆後半パート(ALKA, Pocket)◆

Keyが今までに培ってきたノウハウを充分に活かした作品だと思います。他の作品で見たことのあるような場面も所々あります。決して使い回しと揶揄する訳ではなく、積み上げてきた技術を適確に使用し、ユーザーを感動させようという意志が伝わってくるものでした。

原案者の麻枝准氏や製作スタッフの方々もおっしゃっていましたが、サマポケにはかなりの覚悟と情熱を注がれたようです。その思いを裏切らない、まさにKeyの集大成とも呼べる作品でした。

感傷的な思いを胸に未来へ羽ばたく形でエンディングを迎えますが、本編にはいくつかの謎も残ります。例えば、

・鴎と紬の正体
・”白羽の伝承”の真相
・しろはの母親(瞳さん)の失踪
・鏡子さんの秘密

などです。

 

①鴎と紬の正体

鴎も紬も「特殊な存在」という点で似ていますが、少し異なります。鴎は前述の通り、七影蝶の力を借りているものと思われます。紬に関しては、物語の描写を素直に受け取るならば「ツムギが愛したヌイグルミ」ということになります。紬の正体については他にも、七影蝶説、時の編み人 or うみちゃんと似たような原理で現世に編み込まれた存在説、など色々仮説を立てましたが、どれも憶測の域を出ませんので、素直にヌイグルミ説で解釈するのが妥当かと感じました。

補足ですが、鴎ルートの登場頻度は鴎が最も多く(当たり前ですが)他のキャラはほとんど登場しません。鏡子さんとうみちゃんくらいです。そして、終盤で海賊船を改良しているとき、良一達は鴎の記憶が曖昧です。

紬ルートでは、友達みんなで紬を見送ってあげるという涙なしでは見れない温かいラストがあります。静久と周りの友達は「紬の存在を保証する役割」も同時に担っていたのではないでしょうか。

このような一種の叙述トリックも手伝って、鴎と紬の正体を区別化していると考えます。

 

②”白羽の伝承”の真相

鏡子さんが七海に語った白羽の伝承ですが、教えたのは伝承の一部です。鏡子さんは鳥白島の郷土研究を趣味でしています。加えて、鳴瀬家は代々、島の祭事を司ってきました。山の上にある鳴瀬神社や、毎年行われる夏鳥の儀も伝統のひとつですね。鏡子さんはそんな血筋を引いている瞳さんと親交が深くもありました。よって、白羽の伝承についても、それなりの造詣があると判断できます。七海に伝える時に上手く言葉を濁したり、言うべき所と言うべきでない所を探りながら話している印象も受けました。”白羽”は女性が思い人の為に海に飛び込んだときに上がる水のしぶきの様子が由来と言っていましたが、もうひとつ裏があるのかもしれません。

あと感じたのは、「うみちゃん」は本来「羽未」という名前が当てられていて、夏の檻に閉じ込められ「羽未」→「うみ」になってしまいました。そして、メインヒロイン4人の中で、「しろは」だけが平仮名で表記されています。そもそも、”白羽”はどうして”シロハネ”と読むのでしょうか。”しらは”とも”しろは”とも読めます。しろはと何か因縁があるのでしょうか。鳥白島の歴史をまとめた設定資料なんかも今後見てみたいですね。

 

③しろはのお母さん(瞳さん)の失踪について

父親が亡くなり、ほどなくして母親の瞳さんも行方をくらませます。まだ幼い娘を残してどうして居なくなったのか。サマポケをやった人なら誰もが持つ疑問だと思います。こちらは本編中では動機が明かされていませんので、心の推理をしなければなりません。

”ロリしろは”は「お母さんは力を使ってお父さんに会いに行った」と考えますが、七海はそれを否定します。おそらく父親に会いに行ったというよりは、父親の事故の運命を変えようとしたのではないでしょうか。家族三人そろって過ごすことが、しろはの幸せであり、瞳さんの願いであり、きっと父親も求めていた日常なのです。うみちゃんと同じように、瞳さんも過去に戻り、失われた幸せを取り戻しに行ったのでしょう。

しかし、それは叶わなかった。失敗し、「力の代償」によって瞳さんは七影蝶になり現世と虚構の狭間を行き来する存在になります。うみちゃんやしろはを正しく導くために、瞳さんは(自らの意志で)時の編み人になったというご意見もありますが、あくまで結果的にそうなったというのが私の考えです。理由は前述の通りで、父親が他界したこと、幼い娘を残していたこと、家族みんなの幸せを願っていたこと、です。

ついでに影法師とラストシーンの七影蝶にも触れておきます。あれらの正体は一体誰だったのか。私は当初、しろはのお母さん(瞳さん)だと思っていました。しかし、何回か読み直すうちに、あれはしろは自身だったのではという結論に至りました。影法師=ラストの七影蝶=未来のしろはであり、未来のしろはがロリしろはに七海の正体に気付かせてあげたということです。この点も真相は分かりかねますので、今後タネ明かしが欲しいところです。

 

④鏡子さんの秘密

蔵の整理の名目で羽依里を呼びつけたのに、一向に手伝わせる気配がなかったり。うみちゃんの事情を秘密にしていたり。数々の意味深な発言を繰り返したり。ある意味、本作で一番不可解な言動をしている鏡子さん。

まず鏡子さんや鷹原家、加藤家に特殊な力(未来視、過去へのタイムリープ、時の編み人の関するあれこれ)が備わっているのかという疑問ですが、意味深な発言はあるものの確固たる伏線がありません。鏡子さんも自身にそのような力は無いことを明言しています。それが嘘の可能性もありますが、温情な鏡子さんの性格からは考えにくく、嘘をつく理由もありません。

羽依里に蔵整理を手伝わせなかったのは純粋にうみちゃんがいたからでしょう。その証拠に、うみちゃんがいない世界(=Pocket)では蔵整理を手伝うことができています。鏡子さんと瞳さんは親友でした。親友だからこそ、力の事や、未来の夏にうみちゃんが来る事、そのうみちゃんを気にかけてほしい事などをお願いしていたと思います。

 

感動シナリオの裏側でいくつかの謎を残したまま終幕しるサマポケ。今度FANBOOKも発売されるようですので、ここら辺の謎も解明されるのを期待したいです。


◆Summer Pocketsとは◆

表面的にはKeyのノウハウを凝縮した感動シナリオ。反面、能動的に考察しないと全てを楽しめない仕様になっているSummer Pockets。最後の最後までユーザーを楽しませる工夫が凝らしてありました。冒頭で、「傑作にして良作」と評価した理由がこれです。歴代のKeyの作品で『Rewrite』があります。あれも地球、文明、人類などに向けた強いメッセージが含まれている一方で、プレイヤー自身が考察をして初めて真価を発揮する作品でした。今作も『Rewrite』と同じくらい掘り下げる余地を残してくれました。

では、どうしてそのようなミステリアスな側面を併せ持っているのでしょうか。これは持論になります。

原案の麻枝准氏は制作発表時に、Summer Pocketsを他のゲームで例えるなら『ぼくのなつやすみ』という風に表現されていました。ロケーションやストーリーを通して、「懐かしい夏」「過ごしてみたかった夏」が見事に表現されています。

ひと夏の1ページ。その裏ではきっと別の夏が物語られています。自分が他人に影響を与えたのと同じくらい、知らないところで誰かの世話になっていたり、助けられていることもあります。時間が経って記憶の細部は風化していきます。でも、ある時。ふとした瞬間に「子どもの頃の夏」を思い出すときがあります。その時、自分が過ごした夏とは別の場所で、「もうひとつの夏」がきっとあったのだろうと思いを馳せる。そんな情緒を織り込めたかったのではないでしょうか。

思い出はできましたか?終わってほしくない夏になりましたか?それでも、時間は無慈悲に過ぎて、楽しかった記憶はその鮮明さを欠いていきます。それでも、いつでもいいから、振り返れば、帰る場所がありますよ。そして、過去に負けないくらいの思い出を新しい季節で築いてくださいね。そんなメッセージを残してくれた『Summer Pockets』きっと夏が訪れるたびに、この夏に帰りたくなります・・・。

ご精読ありがとうございました。鍵っ子に限らず、どなたにもオススメできる作品なので、未プレイの方は是非遊んでみてください。

それでは、また次の記事でお会いしましょう。

(2019/03/05)

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